三浦正幸先生講演会「水戸城の昔日の姿 ~天守と城門と御殿の魅力」

さる3/9(土)、水戸市立博物館特別展「水戸城遥かなり」の関連行事として、広島大学名誉教授・三浦正幸先生の講演会が水戸市みと文化交流プラザで行われました。
三浦先生は日本古建築の専門家で日本の城の作事研究の大家です。
私の愛読書「城のつくり方図典」の著者であり憧れの大先生です。先着200名ということで、早々に申し込みを行い喜び勇んで聴講してきました。
備忘録も兼ねてその内容を簡単にまとめます。

テーマは「水戸城の昔日の姿 ~天守と城門と御殿の魅力」ということで、主に水戸城天守についての内容でした。

1. 水戸城全体の特徴
1.1 土造りの城で非常に広大
台地上にこれだけの平坦地を持つ城は日本でも珍しい。

2. 水戸城天守
2.1 公式には水戸城御三階
武家諸法度発布時に天守がなかった城は天守を持つことが許されなかった。しかし水戸城御三階は三重五階であり、その規模は伊予松山城天守や宇和島城天守に匹敵する。また、通常の櫓は城内側に窓を設けないが水戸城御三階は城内側にも窓を設けており、明らかに天守の造りである。事実水戸藩内では御三階ではなく天守と呼ぶように藩主から指示されていた。

2.2 基礎は石造りの布基礎
これは徳川家光築の寛永度江戸城天守と同じ。

2.3 一重目半分までは外壁が海鼠壁
海鼠壁は風雨避けのためであるが高価。(石垣の代わりとして海鼠壁を用いたというのがこれまでの定説)

2.4 一重目内部は三階建て
一重目内部は他の城に見られない三階建てとなっている。二階建ては小田原城などに見られるが三階建は水戸城天守のみ。

2.5 二階内部は中央に柱が一本のみ
二階内部は中央に牛請柱(うしこいばしら)と呼ばれる太い柱が立つのみで、巨大な牛梁(うしばり)を支えていた。日本の古建築でこのような広大な空間は例がない。日本随一の奇構。

2.6 三階は御殿造り
三階の窓はすべて連子窓で非常に明るい。身舎には長押を設け入側にも天井を貼る。外壁も真壁造りで格式が高い。類例がなく明らかに御殿を意識した造り。

2.7 二重目、三重目は大壁造り
大壁造りは防火・防弾性に優れる。他の城では格式を高めるために最上重は真壁造りとする例(姫路城など)はあるが水戸城ではこれが逆になっている。外部から見ることができる二重目、三重目は防御性を重視し、外部から見えない一重目は格式を高めている。合理的な造り。

2.8 四階、五階に外開きの土扉を設ける
外開きの土扉は土蔵の窓に使用されるのが一般的。類例がない。

2.9 屋根は銅瓦葺
銅瓦は高価。これも江戸城と同じ。

こられの特徴や格式の高さから水戸城御三階は櫓ではなく明らかに天守と呼ぶべきものである。また2.2、2.3、2.6、2.9の特徴から非常に豪華な造りであり、2.4、2.5、2.7、2.8の特徴から他城には見られない独特な技巧を凝らした建物であったことがわかる。
もし太平洋戦争で焼失していなければ日本古建築において非常に重要な建物であったことは確実。

3. 水戸城大手門

3.1 水戸城二の丸の大手を守る
慶長六年(1601)に佐竹氏が建造した大型の楼門で、平成31年9月の完成を目指して現在復元中。

3.2 非常に古式で格式重視の造り
二階に白木の長押・柱を見せるのは古式で格式が高い。二階の格子窓の窓台が低いのは関ヶ原の戦い以前の形式。類例は彦根城太鼓門や福山城伏見櫓。鏡柱は一木造りで極めて太く豪華。さらに大手門に続く大手橋には擬宝珠が設けられこれも格式が高い。江戸時代にはなかなか擬宝珠の使用は許されなかった。しかし門扉は横桟に縦板張りで防御力は低い。

4. 水戸城薬医門

4.1 水戸城に現存する唯一の建造物
現在は本丸に位置する県立水戸第一高校の正門として移築されている。

4.2 非常に古式
極めて太い鏡柱、内冠木が角材、垂木に強い反りこれらは16世紀末から17世紀前記の形式である。ただし幕末にほとんどの部材を取り替えているようで建造当時の部材はごく一部か。

4.3 城門には見えない造り
門扉の上を開放しており、板蟇股に装飾が施されている。城門であればこのような装飾は施さない。三浦先生いわく城門と伝えられていなければ間違いなく寺院用の門だと判定するとのこと。

水戸城大手門と薬医門の造りから佐竹家から水戸城を引き継いだ水戸徳川家の性格が伺える。佐竹氏の建物を受け継ぎ、古色=高格式であることを利用している。防御性よりも徳川家としての格式を重んじたか。
三浦先生いわくこの門は屋根が大きく木材も古いため、全体的に黒く写り、日本で一番写真を撮りにくい城門だそうです。私が撮った以下の写真もかなり露出を上げています。

水戸城薬医門その一
水戸城薬医門その一
水戸城薬医門その二
水戸城薬医門その二
水戸城薬医門その三
水戸城薬医門その三

最後に余談ですが「城のつくり方図典」に三浦先生のサインを頂きたく、係の方にお願いをしたところ公演終了後に控室に案内していただき、光栄にも三浦先生と直接お話することができました。10分ほどお話をさせていただき公演中の疑問を解消できました。三浦先生、本当にありがとうございました。

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